斗和キセキとアラン・ホールズワースと
ワタクシお得意のちっちゃく始めて大きく広げる、エモいやつを久しぶりに。斗和キセキちゃんについて書きます。
私、エモいやつ書くとき「ooとXXと」と題名つけるご様子。うっ…部屋とYシャツと私…。なーんて。私は2000年の少し前にNifty-Serveに入会し、もう廃れていたのでパティオに書き込みませんでした。
さて。斗和キセキちゃん、私は「タフさがうらやましいなあ」くらいしか思っていないですが、レッドフレーム改の後、TwitterアカウントIDをメモしていなかったのでTwitterアカウントを探すためWEB検索したところ評論や解説が幾つか検索結果に引っかかりました。
読んだら「冷徹にTwitterを行使している」「インターネット強者のムーヴ」と書かれており、へー、なるほどなあ、と。
ですんで、「インスタ映えする首」クラウドファンディングも、相当行くんだろうなあ、とCOMITIA一般参加の準備をしながら斗和キセキのTwitterアカウントをちらちら見ていました。
結局、土曜日の朝に200万くらい? そこからさらにバズって伸ばして結局1400万のファンディングになりました。おめでとうございます。二日間で1000万強伸ばしたのね…。
私はクラウドファンディングに苦い思い出があります。
数年前、世界的ミュージシャンアラン・ホールズワース氏が新譜をクラウド・ファンディングで出しました。
ファンディング開始時の宣伝動画で、ホールズワースは「一緒に旅に出ようぜ!(バーン)」と語っており、ホールズワースの新譜聞きたいからなあ、と私もファンディング。早よー新譜出ないかなーとだらだら待っていました。
その内リリース予定の日を過ぎてもアルバムがリリースされず、クラウド・ファンディングのコメントがモメ始めました。
私は「ホールズワースは速弾きの手は速ぇけど、曲書く手は遅せぇんだからのんびり待ちゃあいいんだヨ」と書き込もうかと思いましたが、すでにその書き込みを笑ってくれる人はいないだろう、と書き込みませんでした。
そしてファンディングのコメントはさらに炎上。善意のファンが悪徳プロデューサーと化し、「早くしろ」「金を返せ」「騙された」の書き込みがずらりと並び、ファンディングの管理者は「もう事態を制御できない。次に管理者が書き込むのはホールズワースから曲を受け取った時だけだ。」と、事実上の放棄を宣言。
それから数カ月後、新譜がリリースされた、とファンディングサイトからe-mailが届きました。リンクをクリックし、新譜をダウンロード。
アーカイブファイルを展開すると昔の曲のリミックスのお蔵出しとミックスの詰めの甘い新曲、そしてホールズワースの書いたテキストファイル。テキストファイルには「本当に、本当に、何度も投げ出してしまおうかと思った」と捨て台詞が書かれており、それがアラン・ホールズワースの遺作となりました。
「エディ・ヴァン・ヘイレンがタッピング奏法をスタイルまで確立したのはアラン・ホールズワースのフレーズをコピーしたとき指が届かなくて右手でタッピングしたのがきっかけ」と、まことしやかに囁かれる程の世界的ミュージシャン、アラン・ホールズワースでさえ、インターネットで揉めるとこれだけの醜態を晒すんだ、その上失意の内に、と。インターネットは難しい。あの時リリースされた曲を聞くたび苦い記憶が蘇ります。
「嘘を嘘と見抜ける人でないと難しい」中央大学からアメリカの大学に留学し社会心理学を仕込んできた例の彼が言ったのも随分前です。
また私が1990年代に三流私大文系の心理学科で視覚の卒論を準備していた三年生の時、隣の研究室の女性の先輩が、「コンピューターネットワーク上のBBS管理者による炎上(frame)管理」で卒論を書きました。
その時私は、「チャラいモンで卒論書いてるなあ」としか思っていなかったのですが、先輩は今日のこの私達のインターネットを、光る風を追い越すように予見していたのでしょうか。
この20数年間インターネットを見続けて、ヘイト、ハラスメントを集めた人は必ず傷つき、ある人は鳴りを潜め、ある人は失意の内にインターネットで人格主体を示すアカウントを閉じてきました。
記憶に新しい所では東日本大震災の直後に「電気が使えるのは発電所のおかげ」とSNSに書き込んで炎上してアカウントを閉じた電力会社の社員さん、また、お気に入りのコスチュームの子がスタッフさんと食事に行ったからですかね? 「COMITIAをつぶしてやる」とTwitterに書き込んで恥をかいた、同人音楽のAさん。
そして、インターネット上での「フェイク・ニュース」に翻弄され、かのヒラリー・クリントンはアメリカ大統領の席を逃しました。
WEB2.0、と打ち上げられたのも随分前です。WEB2.0のバズワードが、インターネットへの書き込みを理系の秀才君の発表とマニアのお遊びから、標準的な大衆のカジュアルに移行させるイメージ戦略だったにせよ、インターネットに接続できれば皆自己を表現できる、自己表現で人類が啓蒙される、「全人類総自己表現時代」の到来だ、とユートピアが語られました。
そしてやってきたのは「暴走するインターネット」でした。
真実か嘘かは関係ない、インターネットで「本当だ」とバズればオフラインがインターネットのバズりに追随して「本当」になる、TVや新聞で本当と言われたことが本当になるのがインターネットにスライドしただけ、かも知れない「ポスト・トゥルース」、過激で差別的、反動的で盲目的な政治表現を打ち出し続ける「ヘイトスピーチ」、アルバイト先の冷蔵庫にアルバイト店員が潜り込んだ画像をインターネットに上げる「バイトテロ」、ことに女性への嫌がらせが顕著な「ネットハラスメント」。
思想誌は悲観的な話題を取り上げるものですが、最近は定期的にインターネットのネガティブな話題が「現代思想」などの思想誌の紙面を彩ります。
「田代砲」により田代まさしがTIME誌の表紙を飾った時、インターネットデマゴーグはここまで来た、これが大統領選挙だったらどうする? と私が別の所で書いたのも昔の話。少し前だと「天空の城ラピュタ」の「バルスのTwitterへの書き込み」ですね。
あの「バルスのTwitterへの書き込み」は識閾下でのDDos(サービス不能攻撃)です。自分達の故意に気づいていない業務営業妨害。
「バルス!」「目がぁ!」とムスカ大佐が悶えるように、何万人もが「バルス!」とTwitterに書き込み、Twitterのサーバーに高い負荷をかけ、Twitterの運用担当者のおっさんに、「サーバーがぁ!」と一泡吹かせたい、それがあの「バルスのTwitterへの書き込み」の正体です。
ノリや悪ふざけだと、人に見せ、本人たちも思い込んでいたのですが、その底には「偉いおっちゃんに一泡吹かせたい」加虐志向があったのです。
このインターネットの底に熾火のように熱く燻る「嫌がらせ志向」「ハラスメント志向」が、「全人類総自己表現時代」がもたらした「僕達の大衆性」なのか、私は未だにわからないまま、インターネットを使っています。
私を含めた同人誌即売会周りに取っては「炎上」「荒らし」は古くて新しい話です。少なくとも私は、「自分は炎上したくねえなあ」程度は思っています。
どの作家さんだったか忘れましたが、2000年より少し前、ある商業作家さんがWEBサイトを二枚持ちしていて、片方は裏WEBサイトで他の作家さんの悪口を書いていたのがばれて炎上しました。その作家さんは今ではWEBサイトを運営していないはずです。
また同じ頃2○hで粘着されていた萌え系絵書きサークルさんは今ではサークルを辞め、歯医者さんをされています。同人誌即売会周りに限らず、前述の電力会社の社員さん、同人音楽のAさんと、今まで炎上、ハラスメント感情を集めた人物は、必ずその場を去るか、活動をトーンダウンしてきました。三角コーン先生、やしろあずきさんと、斗和キセキ以外は。
存じ上げた順番は逆なのですが、やしろあずき先生の話から。
やしろ先生のWEBサイトでのマンガによれば、やしろ先生がAmazonに「ほしいものリスト」を公開し、読者様よりプレゼントを貰おうとした際、知人さんより「欲しいものだけ並んでいるとカンジ悪いから安くて要らなくてくだらないやつ混ぜるとウケ取れてほしいもの送ってもらえるよ」とアドバイスを受け、三角コーンをほしいものリストに加えられたそう。
この三角コーンがインターネットユーザーの「ウケ」と「ハラスメント感情」を揺さぶり、「やしろの家にたくさん三角コーンを届けてやろう」と大量の三角コーンがやしろ先生の家に送られました。
私の私見ですが、やしろ先生は「困った」と思い、次に「ギャグ漫画家としてオイシイ」と思われたのでしょう。部屋中に満載の三角コーンに埋もれ、うなだれる自身の写真をTwitterに投稿し、このツイートがバズります。
それからやしろ先生は、「三角コーンの漫画家」で名前を馳せ、仕事が来たり、講演を頼まれたり、とWEBLOGに書かれています。最近「秘書さん雇った」ってツイートされていて、お身内に頼まれているかは分からないんですが、どっちにしても景気のいい話です。
やしろ先生は三角コーンの一件で景気が良くなった、で間違いないですし、きっかけはインターネットユーザーの、「やしろの家にたくさん三角コーンを送ってやろう」というハラスメント感情です。
そして斗和キセキ。数だけ書くと、VTuberデビュー数週間でTwitterフォロワー8万人超え、デビュー数カ月後のクラウド・ファンディング1400万円超え。
数字を出した「斗和キセキ芸」が凄まじい。
まずTwitterのフォロワーとYouTubeのチャンネル登録者数を獲得した際のきっかけは、「ガンダムアストレイ レッドフレーム改」。
この文章では斗和キセキのハラスメントコントロールに着目し、他、バズった時のツイートのタイミングや、バズった時にアップロードされていた動画二つのクォリティが高かった、な話は既存の評論に譲ります。
キャラクターデザインの後ろにかかげられた三角形のオブジェが、「ガンダムアストレイ レッドフレーム改」に似ている、とフォロワーから画像だけのリプライを受取り、斗和キセキはこのリプライを拾いバズります。
「女の子がガンダムに似ている」はハラスメントだと私は思いますし、斗和キセキは早々に「ガンダム似の指摘は非倫理的である、嫌がらせである」旨のツイートをし、これもインターネットユーザーのハラスメント感情を刺激し、それも斗和キセキアカウントの算段の内だったと私は考えています。
そして斗和キセキアカウントは、「ガンダム似の指摘でフォロワーが増えるのは『嫌だ』、『悔しい』。」旨のツイートを織り交ぜつつ、その時のフォロワー数、YouTubeチャンネル登録者数のスクリーンショットをツイートしてフォロワー数、YouTubeチャンネル登録者数の増加を強化し、人数を獲得しました。
改めてまとめます。斗和キセキは、インターネットユーザーの加虐志向、ネットハラスメントを壮絶に、スレスレで数字に変えました。
ただ分からないのが、あれだけバズっていれば私のような見物人が見て不愉快な、スレスレではなく本物のハラスメントを沢山受けているはずですが、ツイートのリプライ欄にはスレスレのリプライが並び、本物のハラスメントリプライが見当たりませんでした。
例えばスレスレではないリプライがついたらツイートを消す、など、私の見えない所でコントロールしたのではないでしょうか。分かりません。
「インスタ映えする首を作りたい」クラウド・ファンディングの時も概ね同様。まず、Twitter8万超フォロワーの状態で10万円の目標額を何分間か、何時間かで達成し、「ありがとうございました」とツイート。
それから数字が伸びると、「200万円の首を作るのが手段でなく目的に変わっておりスタッフ一同『頭を抱えている』」、「目標達成額4000%、5000%になったら『怖い』」『もういいよ! やめようって!』、最後の方のひと押しで、事務所の社長さんからのメッセージのスクリーンショットを掲載し、社長さんは「会社の資本金超えたら『泣くわ』。」、そして最後に、「目標達成額14000%でした、『ありがとうございます』」。
まず、斗和キセキは壮絶にネットハラスメント感情をマネタイズした、と上滑りに指摘します。「怖い」「泣くわ」に「悪ノリ」でノるのはハラスメントですが、このハラスメントはそのままクラウド・ファンディングの目標達成額に繋がりました。
それより私が着目したのは、「嫌だ」「悔しい」「怖い」「やめようって」「泣くわ」とSNSにネガティブな書き込みをし、最後に「達成しました、ありがとうございます」とポジティブに書き込んだ人格主体を、初めて見た、です。
前述の通り、インターネットのハラスメント、ユーザーの感情の強いストリームにさらされた人物は、今まで必ず失意の内に活動を閉じました。裏WEBサイトがばれた商業漫画家さんも、電力会社の社員さんも、アラン・ホールズワースも、ヒラリー・クリントンも。
ですから斗和キセキが「次世代を創るVTuber」ならば、最後に「ありがとうございました」とTwitterに書き込んだ斗和キセキが見せたハラスメントコントロール、ハラスメントの実積化・マネタイズは「ポスト・トゥルース」からさらに次世代に続く道への軌跡なのか、と自問すると答えに窮します。
それが次世代なのか? と考えると大きくためらうからです。「嫌だ」「悔しい」「怖い」「やめようって」「泣くわ」に続いて最後に「ありがとうございます」はまるでDVか、アメリカのSMポルノのよう。
ポリティカルに正しくありませんし、ネットハラスメント感情をマネタイズした、と書くにはあまりに壮絶です。それくらい、斗和キセキは難しい問題を私に提示しました。
なので決して、単純に「インターネットユーザーのハラスメントを誘導すれば数字になる」話ではありません。
議員先生の電子投票がもし日本で開始されたら、選挙の途中経過のスクリーンショットをSNSに貼り、「おい待て」「ありえないでしょ」と書き込んで自分への投票を強化するのは是か否か、とかね。でも、多分選挙の途中経過出ないよね。投票後の選挙速報だけのはずです。
そして女はイジられて数伸ばしておけばいいのか、と、こちらもジェンダー的にアウトで難しい話も出てきます。
また、「俺は『ママとマネーとマーケットとマスマティクスに任せればいい』ってマザコンじゃないんだ。文系卒業の『倫理』なんざ時代遅れの骨董品でね、高価すぎて金じゃかえないのさ。」が私の最近の持ちネタです。
斗和キセキアカウントが、「"筋"なのでクラウド・ファンディングで集めたお金は『首部分』にしか使わない」と倫理を書き込むのは、こちらも次世代を創るVTuberなのでしょうか。倫理は、啓蒙とやがて全体主義につながる問題です。こちらも、斗和キセキが明かした問題は難しい。
賢い人の能書きが読みたいので、偉い思想家の先生を集めて思想誌で斗和キセキやVTuberの特集組んでもらいたいなーと。お金と権力の話になりましたが、2019年の現在、インターネットでバズれる奴はタコスに当たり判定がある人のように、お金も権力も手に入ります。
「天空の城ラピュタのバルスの書き込み」は、TV局の側から「バルス祭り」と持ち出し、「おっちゃん達への嫌がらせたり得ない」形に持って行きSNSユーザーのハラスメント感情を白けさせて事態を収束させました。
斗和キセキはハラスメント感情をコントロールしながらポリティカル・コレクトネスすれすれ、時には踏み越えてSNSを行使し、SNSのフォロワー数、YouTubeのチャンネル登録者数、クラウド・ファンディングの金額と、成果を出しました。
小泉政権の頃「勝ち組」「負け組」と言われて随分年月が経ちました。「負け組」の方が数は多いのだから、「僕達負け犬の大衆の数の力」で、偉いおっちゃんや美人な女の人に泡を吹かせるのが「弱者の一撃」(Sucker Punch)で「全人類総自己表現」なのか。
大衆の逆襲なのか、ヘイトスピーチは「弱者による政治表現の自由」なのか、「人間性を全く失った階級が自分を含めた全ての階級を解放し自分自身を自由にする」のが同志人民による世界同時革命なのか、「ポスト・トゥルース」「ヘイトスピーチ」「ネットハラスメント」は持たざるもののキューソネコカミなのか。
21世紀は憎悪の世紀と言われます。
21世紀に入ってから20年間、AIが将棋で人間に勝ち、自爆テロが世界で起き、日本で初めて民間ロケットが宇宙に達し、秋葉原にレンタカーが突っ込み、日本人が破格の若さでノーベル生理学賞をとり、インターネットへの音楽・マンガの違法アップロードが横行し、新世代の天才将棋棋士が史上最年少記録を更新し続け、そして斗和キセキが日本のインターネットエンタテインメントで、短い期間に颯爽とシンデレラ・ガールの道を歩みました。
1991年に既に21世紀は始まっていたにせよ、2001年09月11日に劇薬よりもキツい口当たりでバッサリと21世紀の幕が切って落とされたゼロ年代、2011年03月11日にあっさりとあっけなく崩れ落ちた2010年代。
この時代はそのまま、インターネットが大衆に普及し、世界中の情報を手のひらサイズのコンピューター(=スマートフォン)で閲覧できるようになったと共に、前述の通りネットハラスメントが顕在化し、ポスト・トゥルース時代が到来した過程と軌を一つにします。
そして時代はまもなく2020年代を迎えます。
アラン・ホールズワースが「旅に出よう」と差し出したその手を繋いだ旅の途中、斗和キセキが見せた「ハラスメントコントロールの奇跡」が2020年代に描く軌跡は、「叩かれたくなきゃハナから目立つな喋るなと仕向けた、叩く側に回れば勝ちって正義のバッジを付けた、お前『何様?』」と睨みつけるやぶにらみを笑い飛ばす「Raindow Girl」の描く7色の虹なのか、見渡せるのは震える闇夜の果て、ざわめく世界の向こうです。
キーワードは、「オンラインゲームのヘイトコントロール」、「娯楽には多分ないけれどハラスメントコントロール」。
平成が終わり、令和が始まり、あと半年で、私たちの2020年代が始まります。